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「3」 人よればかしまし!            10 11
今日は、私の家で名探偵ごっこをやろう!
またヘンな遊びを……。
涼理は名探偵役ね。
私はワトスン君をやるから。
はあ。
ホームズ、ここに小さな足跡が……!
そうだねワトスン君。
あー、それともマーチ大佐にしようかな。
カーの方がなー、好きだしなー……。
何の話……?
名探偵ごっこか。
面白そうだな!
ど、どなたですか……?
げっ。何でいるんだよ……。
「げっ」とは失礼だな。
我が妹よ。
あっ、史佳のお兄さんですか?
そうだ。
愚妹がいつもお世話になっているようで。
蓬山知基(トモキ)だ。よろしく。
よ、よろしくです……。
(史佳、お兄さんいたんだ)
(あーうん。一応ね……)
(いつもは家にいないんだけどさ。結婚してるし)
(へぇ、そうなの)
んで、今日は何でうちにいるの?
うん、よくぞ聞いてくれた。
実はな……。
大切な指輪をなくしてしまったんだ。
えっ!
それってもしや結婚指輪!?
悲しきかな、大当たりだ。
だからさ。
いっしょに探してくれないか? 名探偵さん。
えっ、えっ?
ちょっとちょっと、私たちこれから二人で遊ぶんだから、
面倒な仕事を押しつけないでよ……。
良いじゃないか。
とりあえず、事の経緯だけでも聞いてくれよ。
一か月ぐらい前のことだったかな。
俺はここ、実家に戻ってきていたんだ。
はい。
庭をブラブラしていると、
俺の女友達――C子が庭へやってきた。
彼女とは、けっこう仲良くしていたんだが、
俺に婚約者がいるのではないかと勘づかれていたらしい。
自分が結婚していることを明かしたくなかった俺は、
結婚指輪を彼女に見せたくなかったんだ。
人間のクズだな。
だから手を、体の後ろに回していたが、
それを不審に思われたようでC子は指を見せろと言ってきた。
それで、俺はとっさに指輪を外し、
近くの水瓶に落としたんだ。
そうして、C子には事がバレずに済んだ。
今でも彼女とは仲良くやっている。
いや、そういう報告いらないし、
後でパパにチクるからな。
小遣いやるから黙っててくれ。
…………。
C子のことより指輪のことだ。
水瓶には小さい魚が住んでいた。
そいつが、指輪をエサだと思い込んだようで、
指輪を食っちまったんだ。
(史佳、嬉しそうな笑みを浮かべる)
それだけならまだ良かった……。
しかし、C子と話しているうちに、
近所のネコがやってきて魚を丸呑みしていったんだ。
わあ……。
ちなみに、そのネコの名前は「しらたま」という。
どうでもいいよ。
――と、そういったわけなんだ。
食ってしまって排泄されたか、
吐き出されたかは分からない。
しかし、何はともあれ大切な指輪だ。
できることなら見つけたい。
自業自得じゃないか?
ネコが食べてしまったのだとしたら、
捜索範囲はかなり広がりそうですね。
そうだなあ。
その子の行動範囲が分かればいいが……。
そのネコを見つければいいんじゃない?
しばらく観察していれば、
行動範囲とか分かるんじゃないかな。
うーん、確かに。
しらたまちゃんねぇ……。
うちのネコじゃないでしょう?
もちろんそうだ。
近所のネコで、良くうちの庭にやってくる。
ふぅん。
私は多分、見たことないなぁ……。
……まあ、お気の毒さまだけど、
私は捜索とかゴメンだよ。
指輪ぐらい、別のを買えば?
軽く言ってくれるな、妹よ。
結婚指輪だぜ……?
知らんがな。
あの、わたし……。
それっぽいネコがいたら教えますね。
ありがとう……。
フミと違ってやさしいな。
涼理、あまり甘やかしちゃダメだぞ。
うぅ……。
なにか、その子の特徴ありますか?
そうだなあ。
うーん、首輪はしていなかったし……。
黒いネコだっていうぐらいかなぁ。
そうだ、黄色い瞳をしていたかも。
えっ、黒ネコなんですか……?
「しらたま」って言うから、てっきり白いネコなのかと……。
黒ネコに「しらたま」という名前をつけちゃいけない
決まりはないだろう?
このギャップがハイセンスなんだ。
めんどくさいやつ……。
黒ネコ、黄色い瞳……。
どうした、涼理?
一つ、聞いていいですか?
しらたまちゃんが指輪を食べてしまった日。
一か月ぐらい前と仰っていましたが……。
一か月前というと、夏休みに入る少し前。
七月の半ば頃ではありませんか?
そうだな。ちょうどその頃だろう。
お?
涼理、なんか名探偵っぽいね。
…………。
わたしは、推理小説の名探偵みたいに
頭は良く回りませんけど……。
わたしに分かることもあります。
もし「しらたま」ちゃんが、
わたしの良く知っている黒ネコで――。
もし、指輪が「あのとき」
まだ体内にあったのだとしたら――。
おそらくは……。
指輪はもう、とっくの昔に、
灰になってしまったのだと思います……。
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